AI時代にライターが生き残るための3つの力 ―「コンテンツ」と「人」の出会いが損なわれないために

近年、「ライターの仕事はAIに代替されるのでは?」という問いが生まれています。


「仕事がなくなりそうで怖い」
「このままライターを続けていけるのか」
「自分が成長できているのかわからない」


そんな不安を感じる人も多いでしょう。
AIに仕事を奪われるという懸念は、ある側面では正解ですが、別の側面では間違いです。正確に言えば、AIに仕事を奪われるライターと、AI時代にこそ価値を発揮するライターに分かれます。


ライターの役割とは何か?
なぜ、本人が書くのではなく、ライターが介在するのか?


それは、「価値あるコンテンツ」と「コンテンツを求める人」との出会いをつくるためです。専門的で役に立つ、あるいは人の心を動かすコンテンツが存在し、それを求める人もいる。しかし「わかりづらい文章」が邪魔をして、その出会いが損なわれてしまうことは多々あります。コンテンツと読者の間に誰でも通れる橋を渡して、AI時代に価値を生み続ける。そのために必要な3つの力について、お伝えします。

これからの中心は「取材ライター」

ひと口に「ライター」と言っても、さまざまなジャンルがあります。インタビューライター、ルポライター、旅行ライター、グルメライター、ITライター、サイエンスライター……。どれも「文章を書く」という点では共通していますが、必要なノウハウはそれぞれに異なります。

その中で、これからのライターの活躍領域は、「聞いて書く」仕事、いわゆる「取材ライティング」になっていくと考えています。

そこには、AI時代を背景としたいくつかの理由があります。

まず、AIの得意領域についてです。AIは、ネット上の膨大な情報を瞬時に取捨選択し、誤字脱字なく、論理的な文章で出力します。つまり、 「調べて書く」ことについて、人間はAIにかないません。

もちろん、ネット上にまだ存在しないような情報を紡ぐことができれば、価値のあるコンテンツになるでしょう。しかしそれは、ライターではなく「作家」や「研究者」と呼ばれる領域です。

次に、コンテンツに求められる基準の変化があります。

「EEAT」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、Googleがコンテンツやサイトを評価する基準としている、「Experience(経験)」「Expertise(専門性)」「Authoritativeness(権威性)」「Trustworthiness(信頼性)」の頭文字を取ったものです。 従来、この基準は先頭の「E」を除いて「EAT」と言われていました。「Experience(経験)」は2022年の12月にGoogleが発表した「検索品質評価ガイドライン」で加えられたもので、実際の経験を経て得られた学びや気づきといった情報を指します。 これは、調べてわかる内容ではなく、実際に経験をした人にしか作れないコンテンツです。しかし自分の頭の中にあるコンテンツを、本人が自覚しているとは限りません。自覚していても、それが価値だと認識していない人もいます。また、自分ではうまくコンテンツを言葉にできない人もいます。だからこそ、「聞いて書く」ライターが必要になります。

では、適切に「聞いて書く」ためにはどうすればいいか。調べて書くことは、AIのほうが得意です。細かな文章スキルは、AIが補完します。誤字・脱字のチェックや表記統一などは、AIのほうがはるかに優秀です。 「書く」の大部分がAIに代替されようとされている中、AI時代のライターに求められるのは、この後にお話しする3つの力――「仮説力」「質問力」「整理力」――です。 これは、編集者にとっても不可欠な能力です。これまで、ライターと編集者は異なる役割を持っていましたが、その境界線は曖昧になっていくでしょう。頼まれた仕事をこなすだけではなく、自ら必要なコンテンツを定義し、集め、デザインしていく。一貫性と意思のあるライティングにこそ、需要は高まっていくはずです。

正解のない中で答えを引き出す「仮説力」

AI時代のライターに必要な力の1つ目が、「仮説力」です。 仮説とは何か。辞書で調べてみると、「ある現象を統一的に説明するために立てた仮定」とあります(『岩波国語辞典 第7版 新版』)。この定義によれば、何かをひとつの視点で体系立てて説明するためには、仮説が必要だということになります。まさに、ライティングに必要な姿勢です。

取材の際に、思い付くままの質問を重ねていても、まとまりのある文章を書くのは難しいでしょう。「こんな流れで構成すれば面白いのではないか」「読者はこんな話を求めているのではないか」という仮説を事前に立てておくことが必要です。

また、価値のあるコンテンツを引き出すためにも仮説は必要です。 ライターにとって、取材の最大の目的は、「まだ世の中に出ていない言葉を引き出すこと」です。インタビュイーがどこかで話している内容を聞いても(それはそれで必要ですが)、価値のあるコンテンツにはなりません。 しかし、世の中に出ていないということは、それがどんな言葉なのか、ライター自身も知らないということです。どんな話を聞くべきなのか、正解のない中で答えを探る必要があります。

例えば、経営者に商品やサービスの魅力を聞いても、これまでに何度も答えてきたことでしょう。カタログやウェブサイトにも書いてあるはずです。取材で探るべきなのは、もっと奥です。

「この商品を開発した理由にオリジナリティがあるのかもしれない」「売れていくまでの困難に焦点を当てると熱のある記事になるのかもしれない」「顧客にどのように使ってほしいか、というところを伝えるべきなのかもしれない」。そうした仮説を立てて、質問を考えます。

そうして「この商品を通して、お客様にどんなことを感じてほしいですか?」と聞いて、「よく聞いてくれました。それは――」となることもあれば、「いや、別にそこは……」となることもあります。

このとき、仮説が合っているどうかは問題ではありません。むしろ、間違っているほうがいいとも言えます。仮説通りだということは、ライター自身が発想でき得るものであり、それは多くの場合、読者も想像できる言葉だからです。

ではなぜ仮説を立てるかというと、深い仮説は同じ深さの答えをつれてきてくれるからです。顧客にどんなことを感じてほしいのかと聞けば、おのずと商品やサービスに懸ける想いを話してほしいという意図が伝わります。そこから「商品を開発する上では一切妥協しなかった」「商品開発のきっかけは社員のひと言だった」といった話が出てくるかもしれません。少なくとも、カタログに載っているような説明では終わらないでしょう。

ライティングの過程でも、仮説が自分を助けてくれます。ライターという仕事の苦しさのひとつが、「文章がうまくまとまらない」「どこか違和感がある」という感覚との戦いです。そうしたとき、なんとなく制作を進めているだけでは、どこに問題があったのかがわかりません。「こういう順番にすればうまくまとまるだろう」「ここを強調すれば面白くなるだろう」と考えて、形にしていく。その結果うまく書けないのであれば、仮説が間違っていたのだと判断できます。 制作過程で分岐点をつくり、仮の答えを決めてそちらに進む。間違っていたら、分岐点に戻って修正する。このプロセスが、コンテンツを磨き上げていきます。

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相手の思考に形を持たせる「質問力」

仮説を立て、企画や質問項目を考える。ただし、取材で仮説通りの言葉が出てくるわけではありません。インタビューの目的は、相手の頭の中に眠る考えや想いを共に探し、言語化することです。どこに隠されているのかは、本人も知らないことが多い。準備した仮説を入り口に、さまざまな視点から掘り下げていく。そのために必要なのが、「質問力」です。 取材スキルは無数にありますが、例を挙げると、当スクールでは下記のような聞き方が効果的だと考えています。

・Whyを繰り返す
・例えを出す
・「いちばん」は聞かない
・敢えてあいまいな質問をする
・同じことを別の聞き方で聞く
・別ジャンルの視点/逆の意見をぶつける
・他者との差を聞く
・抽象度/具体度を上げる
・「強い」「早い」「多い」単語に注目する
・共通点に注目する
・最後にもう一度聞く

ただし、こうした取材スキルを活用するためには、「対話」ができることが前提です。 経験の浅いライターに多いのが、「取材」と言いながら、単なる「Q&A」になってしまうことです。事前に準備した質問項目を順に聞いていき、その答えに対して「なるほど」「すごいですね」とリアクションする。あるいは相手の答えをオウム返しして、「では次の質問に」と進めていく。そのような聞き方が必要な場合もありますが、一問一答で本質的な言葉が出てくることは極めて稀です。

質問に対して、思ったような答えが出てこない、あるいはもっと面白い言葉が眠っている。そのように感じるのであれば、別の側面、別の方法で聞くことが必要です。仏師が木材の中に仏を見出し、その姿に合わせて彫刻刀を入れるように、あらゆる方向から、丁寧にアプローチしていきます。

そのためには、相手と対等な立場でいる必要があります。 class="text_bold">相手と対等な立場でいる必要があります。もちろん礼儀を失するということではなく、プロフェッショナルである相手に対して、プロの聞き手として接しなければいけません。

とはいえ、取材相手は多くの場合、その道の専門家です。同じ土俵で戦おうと思っても、無理があります。相手が学者なら芸術家のように、相手が芸術家なら学者のように接することで、新しい視点を与える。あらゆるインタビュースキルは、そうした構図の中でこそ効果的に働きます。

わかりやすい文章を作る「整理力」

最後が整理力。これもコンテンツ制作全般に必要な力です。

まず、企画や質問項目を考える際には、「内容にヌケモレがないか」「順番は適切か」「ボリュームは適切か」といった基準が必要です。脈絡なく考えてしまうことで、ライティングの際に材料が足りない、あるいは話が繋がらないと苦労するライターは多いでしょう。

取材の際にも、話の内容を整理しながら対話することが求められます。話の順番を整理して体系化する。要約して、名前を付ける。共通点を見つけて、本質を言語化する。まだ世の中に出ていない、価値のあるコンテンツは、インタビュイーの中ではっきりとした形を持たずに存在しています。混沌とした思考を整えることで、新しくパッケージングしていきます。

そうして引き出したコンテンツを、次は文章として整理していきます。情報を正しく取捨選択し、適切に分類し、論理的に順番を整える。そうして「わかりやすい」コンテンツができあがります。

もちろん、情緒的な文章や印象的な表現も必要ですが、取材ライティングにおいて最も大切なのは「わかりやすさ」です。

人はドラマや小説のように、理路整然と話すことはできません。頭の中から初めて出てきたコンテンツであれば、なおさらです。テープ起こしをそのまま整えたような文章は論外としても、わかりづらいがゆえに伝わらない文章もたくさんあります。

前提は、企画や取材によって、価値あるコンテンツを引き出すこと。その魅力的な情報を純度高く、わかりやすい形で届けることさえできれば、そのまま「おもしろい」コンテンツになるはずです。

また、AIを使いこなす上でも整理力は欠かせません。「調べて書く」コンテンツであれば、AIによる文章構成はすでに実装レベルだと感じますが、「聞いて書く」コンテンツでは、まだまだ人の視点での構成が必要です。AIでは1文や段落単位で整えることはできても、項レベルで論理を通すことはできません。

これからその辺りも補完されていくのかもしれませんが、文章の「不足」「過多」「矛盾」を判断することは、やはり人間にしかできないでしょう。

情報に不足はなくても、もっとわかりやすい説明を加える。間違ってはいなくても、必要のない情報を削る。また論理が通っていても、情緒的な矛盾が生まれる場合もあります。それらを精査する力を持っていることが、AIを使いこなす最低条件です。

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幸せな出会いは「言葉」によって生まれる

「AIに仕事を奪われるのではないか」「いつ仕事が途切れるのか」と不安に過ごすのではなく、その変化の波を乗りこなしていきましょう。

企画を立てる際、AIは非常に優秀な壁打ち相手になってくれます。取材のための質問項目をAIに考えてもらうのも、発想のきっかけとして効果的です。テープ起こしや校正はもちろん、構成を検討するうえでも、AIは新しい示唆をくれます。

それらが有効に働くためには、AIを使う側に十分な実力が必要です。AIをツールとして使うことで、自分の力を拡張していく。それがこれからの時代のライター像です。

ライターという業界は、体系だった学びを得ることが難しいと言えます。大多数はフリーランスとして活動しており、直接教えてくれる人がいることは稀です。自分の作ったコンテンツに対する読者の評価は届きづらく、編集者が細やかに指導してくれるわけでもありません。そして、「どこまで手を加えればいいのか」というゴールも自分で決める必要があります。

十分に学べないままに経験を重ね、成長を実感できない人はたくさんいます。それであればまだいいほうで、自分の実力不足を自覚せず、一人前だと思って活動する中でいつの間にか仕事を失ってしまう人がいることも事実です。

しかし、「文章を書くことを仕事にする」という覚悟が実を結ばずに消えてしまうのは、実にもったいない。文章によって生まれる可能性は、無限大 文章によって生まれる可能性は、無限大です。価値あるコンテンツが、それを必要としている人に届く。たった一文が、誰かの悩みをほどくかもしれません。小さな気づきが、人を大きく成長させるかもしれません。知と知の結合が、社会を前進させるかもしれません。

すべての出会いは、「言葉」が適切に用いられてこそです。自分の仕事を通して、誰かの人生を、社会を豊かにしていく。そんなやりがいを感じるために、次のステージへと進んでいきましょう。